医院トピック

第5回 「医学の進歩は駆け足・・・」femalelife club掲載記事

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femalelife clubに井上院長が寄稿した記事を許可を得て、転載いたします。

【femalelife club】http://www.femalelife.jp/club/backnumber/116.html

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出産をするとしたら、あなたはデザイナーズベビーが欲しいですか?

神の領域に足を踏み入れているかと思われる現在の医療について、
産婦人科医として30年の井上先生のお話を、あなたはどう感じ
ますか?「生む性」の女性として考えておきたい大切なテーマです。
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第5回
「医学の進歩は駆け足・・・」

医師になって今年で30年、産婦人科分野でも多くの医学技術が進歩、
臨床の現場では体外受精は日常的に行われています。いつ陣痛が発来
するか?という有りそうな研究は進まず、外来で妊婦さんに聞かれても、
そろそろですね・・・と答えながら24時間スタンバイしています。
「どんな子が生まれるでしょう?」「こういう子供が欲しい!」親に
なる時は不安や期待で心が揺れ動きます。この情報過多の時代、世界の
医学の最新情報だって数分で得ることが出来ます。
「デザイナーズベビー」とは受精卵の段階で遺伝子を調べ操作するなど
をして、外見や知力体力など、親の希望をかなえた形で生まれる
赤ちゃんです。アメリカでは遺伝子解析技術に特許が認められたという
報道に、産婦人科医師の私は素直に喜べない心の動揺があります。
医学の進歩により、病気になり易い遺伝子や体格、能力に関与する
遺伝子も解析可能な時代。アメリカでは唾液に含まれる遺伝子を分析し
病気のリスクを予測する会社もあります。
2009年に公開された映画「私の中のあなた」はデザイナーズベビー
がテーマの作品です。アメリカの両親と2人姉妹、妹のアナは白血病の
姉ケイトのドナーとして、遺伝子操作をして生まれました。姉の治療の
ため、臍帯血輸血、骨髄移植を提供し13歳の時に腎臓移植を強い
られた時に両親を訴える裁判を起こします。姉の病気を治すために
両親にデザイナーズベビーとして生まれ犠牲を強いられた妹の話です。
乳がんのなるリスク遺伝子が低い子供が欲しい! 男の子が欲しい!
女の子がいい!運動神経がよい子供が欲しい・・・、親になる時に
普通に単純に思う事が、医学の進歩によって可能になる時代。神の手
だった医療が現実になる時代。産科外来では出生前診断と着床前遺伝子
診断による命の選別に議論がなされていますが、正解はありませんね。
想像をこえて医学は進歩していくのです。人が幸福になる為に医学技術が
あるはずなのですが、医療現場の法律の整備は倫理観の教育は遅れています。
情報は溢れ、いろんな価値観をもった専門家や世代の異なる人、国の違い、
人種の違い、議論しても伝わり方も変わります。先日、すでに日本でも
個人の精子提供がインターネットであり、医療機関と関係なく個人が子供を
欲しい女性に初対面でも精子提供を行っている事実が報道されていました。
子供は愛し合った結果として生まれて来るのが一番いいのは当然です。
生殖医療の技術によって授かった子供達、いろんな多様な生まれ方が
あっていいと思います。どこまでが医療、どこからが神の手なのかは
個人の価値観によるものかもしれません。
でも子供の人生はその子供のもの。産婦人科外来では多くの遺伝や不妊
治療の相談を受けます。
グリーンリボンはアメリカで始まり、現代では世界的な移植医療の
シンボルとして使われています。移植医療・再生医療の進歩は素晴らしい
です。いつか自分も、いつか自分の家族も、自分の友人も、自分の
患者さんも、移植医療に関わることがあるかもしれません。
ドナーになれるか?移植医療・再生医療をどこまで受け入れるのか?
どんなに親切なインフォームドコンセントをもってしても決められない
時もあるでしょう。そんな時は立場を代えて、視点を変えて、数年後の
近未来、50年後の次世代の事など考えてみてもいいかなと思います。
乳がん啓発のピンクリボン、エイズ啓発のレッドリボンに象徴される
リボン活動は、患者さんやそのご家族に対する思いやりに気持ち、
優しさを形にしたものですね。
医学の進歩を人が生きる幸福の為に進むように考えることが大切だと
思うこの頃です。