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検査・治療を理解するための基礎知識

不妊検査・治療を理解するための基礎知識

1排卵から受精、着床までのプロセス

①排卵

  • 妊娠には卵巣から良質な卵子が排卵されることが必須です。年齢とともに卵子の老化が進行し、良質な卵子が排卵される周期は30歳代後半から急激に減少してきます。
  • 欧米では、高齢者の流産防止のために体外受精を応用して受精卵(受精した卵子は胚といいます)の染色体異常を検査し、異常のない胚だけを子宮内に戻す、という治療が日常的に行われています。その分析結果によると40歳前後で染色体異常のない正常胚の割合は10~20%程度でしかない、との報告があります。

②卵子の卵管内へのピックアップ

  • 次のステップとして、卵巣より排卵された卵子が確実に卵管内にピックアップされることが必要です。ただし、不妊でない女性でも卵子が卵管内にピックアップされるのは数回の排卵に1回程度といわれています。
  • 卵管周囲に子宮内膜症やクラミジア感染症などによる癒着がある場合には、ピックアップされる確率がさらに低くなることが予想されます。

③受精および胚の子宮腔内への移動

  • ピックアップされた卵子は卵管を移動し、卵管のほぼ中央で精子と出会い、受精します。さらに受精卵は卵管内を移動しながら5~7日かけて「胚盤胞」という段階まで発育し子宮腔内に到達、着床します。
  • 卵管内の狭窄や癒着は精子や卵子の移動を妨げ、胚の発育に悪影響を与え、受精障害や胚が子宮腔内まで到達できずに卵管内着床(卵管妊娠=子宮外妊娠)の原因になることがあります。

④胚の着床

  • 着床がスムーズに行われるためには、胚の質のみならず子宮内膜の質などの子宮内環境が重要です。
  • 黄体ホルモンの分泌が不十分であったり、子宮腔内に子宮筋腫や子宮内膜ポリープなどがあれば着床障害の原因になる可能性があります。また流産手術や人工妊娠中絶を繰り返すことが子宮内膜にダメージを与え、子宮内膜の発育を障害することがあります。

⑤精子の子宮腔内への上昇

  • 腟内に射精された精子のなかで運動性能の高い精子のさらにその一部のみが卵管内に到達できます。卵管内の卵子まで到達できる精子は射精された精子の数千分の一といわれています。
  • クラミジアなどの感染症による子宮頸管(子宮の入り口)の炎症や排卵期の頸管粘液の分泌不全は精子上昇の妨げになることがあります。

 

2不妊検査でわかること、わからないこと

①排卵

  • 卵胞とは・・・
    卵巣内の卵子は卵胞と呼ばれる小さな袋の中で成熟します。卵胞は徐々に大きくなり、直径が20㎜前後になると破裂して卵子が飛び出してきます。これが排卵です。
  • 超音波検査により卵巣に直径20㎜前後の卵胞が確認できれば卵子は発育しており、基本的には排卵は起こるだろうと判断します。また排卵が起こると基礎体温は上昇し高温期になり、全体として2相性(排卵前の低温期と排卵後の高温期)を示します
  • ただし、2相性であっても以下の点で注意が必要です。
    ★未破裂卵胞となることがある。
    まれに発育した卵胞が破裂せずに、つまり卵胞内に卵子が残ったまま体温が高温期に移行する場合があります。未破裂卵胞となる頻度は低いのですが、頻繁に起こっている場合は不妊の原因になります。
    ★卵子の存在しない卵胞が発育することがある。
    過去に発育し、排卵せずに発育停止した卵胞(閉鎖卵胞という)が再び発育してくることがあります。このような周期が多い場合には不妊の原因になります。

②卵子の卵管内へのピックアップおよび胚の子宮腔内への移動

  • 卵子のピックアップには卵管采(卵管の先端)が十分に大きく開いており、さらに卵子や胚の移動には狭窄や癒着がない正常な卵管である必要があります。
  • 卵子のピックアップおよび移動に支障のない卵管かどうかを診断するためには、子宮卵管造影法や腹腔鏡検査が有用です。ただし、実際に卵子が卵管内へピックアップされているかどうかを確認するための検査はありません
  • 原因が明らかでなく、一般不妊治療(タイミング指導や人工授精)で結果が出ない場合は、ピックアップ障害も原因の一つとして考える必要があります。

③受精

  • 卵管内で受精したかどうかを確認する検査もありません。原因不明不妊の中には受精障害も一定の割合で含まれており、一般不妊治療で結果が出ない場合には受精障害も原因の一つとして考慮する必要があります。
  • 妊娠反応が陽性になれば結果的に受精したことになりますが、受精していない場合はもちろんですが、たとえ受精はしても胚の発育が途中で停止してしまった場合、最終的な段階の胚盤胞まで発育しても子宮内膜に着床できなかった場合、などでも妊娠反応は陽性になりません。

④胚の着床

  • 胚が子宮腔内に到達して着床したかどうかを確認する検査は、言い換えれば妊娠したかどうかの検査であり、通常は尿の妊娠検査で確認できます。
  • ごく初期の流産(胎嚢が確認できる以前の化学的流産)の場合、市販されている妊娠検査では検出できないことがあり、尿や血液中の妊娠性ホルモン(HCGと呼ばれる胎盤から分泌されるホルモン)の精密な定量検査が必要です。

⑤精子の子宮腔内への上昇

  • フーナーテストで確認できます。まず、精液検査で精子の状態(濃度、前進運動率、前進速度など)を確認した後に、フーナーテスト(性交後試験)を行います。フーナーテストには標準的な方法、診断基準はなく、再現性に乏しいため不妊検査としての信頼性に欠けるという指摘があります。
  • ただし、精子所見に問題がなく確実に性交が行われているにもかかわらず、子宮腔内に運動性良好精子が認められない場合は、妻の抗精子抗体による免疫性不妊、腟から子宮への入り口である子宮頸管の炎症、精子上昇に必要な頸管の分泌液(エストロジェンの働きにより分泌される頸管粘液)の不足などの不妊原因の存在が示唆されます。

3原因がわからない不妊への対応

  • 原因不明不妊には、卵子の卵管内へのピックアップ障害、卵管内での卵子と精子の受精障害、受精卵の発育障害などが含まれていると考えられます。しかし、これらについては確認や検査をする方法はありません。
  • 一般不妊治療を一定期間行っても結果が出ないご夫婦には、これらの不妊原因の存在が想定されます。
  • これらの原因に対しては、高度生殖医療(体外受精、顕微授精)で治療可能な場合が少なくありません。早めのステップアップを考慮すべきと考えます。

【ドクターズファイルに掲載されました】
晩婚化により、妊娠・出産を望む夫婦の年齢も上がり、不妊に対する悩みが増えてきている。不妊の原因は、女性側、男性側、また双方にある場合があるが、男性においては、なかなか不妊検査や治療に積極的になれず、女性に責任を押し付けてしまうことも多いそう。そもそも不妊とは何なのか、検査や治療ではどのようなことが行われるのか、「井上レディースクリニック」の中田浩一副院長に話を聞いた。

(取材日2015年2月2日)

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